米国でのポケモンGO訴訟における和解成立に関して

 

米国で行われていた、ポケモンGOのジムやモンスターを他人所有地に設置することに関する集団訴訟において、Niantic社が提示した和解案で和解が成立する見通しになったことが報道されています。

 

私もポケモンGOのユーザーなので興味があり、少し調べてみました。

 

この訴訟は、2016年8月ころ、北カリフォルニア州連邦地方裁判所で提訴されたものです。ポケモンGOのジムやポケストップを自分の所有地にバーチャル空間上に設置された土地所有者等が、ゲームユーザーによる私有地への不法侵入(trespass)等を理由に、ポケモンGOの開発者であるNiantic、マーケティング等の権利を保有するPokemon Company、同社株式の30%を有する任天堂に対し、不法行為(tort)の一類型であるnuisance(迷惑行為)、不当利得(unjust enrichment)に基づき請求をしています。その後、いくつかの同様の請求が併合され、不法侵入(trespass)に基づく請求も追加され、Pokemon Companyと任天堂に対する請求は取り下げられ、被告はNianticだけとなりました。

 

今回、原告ら側から提出された和解案にNianticが同意したため、裁判所がこれを承諾すれば、和解が成立することになったという運びです。

 

和解案の全文(英語)はこちらです。

 

和解になったため、残念ながら、「バーチャル空間において現実空間の私有地にあたる場所に何らかの物を設置したりすることが現在の不法侵入法(trespass law)違反にあたるか」というvirtual intrusionの争点に裁判所の判断が出されることは将来に持ち越されることとなりました。

 

さて、同様の訴訟を日本で提起することはできるでしょうか。私は、上のような新しい争点を持ち込むことなく、請求が立つことは立つのではないかと考えています。ポケストップやジム、モンスターを私有地に配置することにより、他人が私有地に侵入することが頻発するということがあれば、所有権侵害行為(これには故意過失という主観的要件は不要です)や不法行為を誘発しているということで、所有権侵害又は不法行為に基づく損害(慰謝料を含む)の賠償請求をすることができると思います。

 

ただ、問題は、損害額です。仮に請求が認められるとしても、他人が侵入してくるという程度であれば、損害額は10万円程度ではないかと思われます(あくまで感覚的なものです)。そうすると、それを超える弁護士費用を負担してまで訴訟を行うかという費用対効果の問題が生じてきます(よくある質問ですが、日本では弁護士費用は裁判の勝敗にかかわらず、自己負担が基本です)。ジム等の撤去を求めることに主眼を置くのであれば別ですが、この場合は請求が認められるためのハードルが高くなります。

 

そこで生きてくるのが、本件でも使用されている米国のクラスアクション制度です(Rule 27。「集団訴訟」とも訳されます)。この制度は日本にはありません(2016年から施行されている「消費者裁判手続特例法」に基づく裁判が日本版クラスアクションと言われていますが、似て非なるものです)。この集団訴訟の面白いところは、個人が勝手に一定の集団(class)の一員(member)であるとして訴訟を提起し、裁判所にそのclass全体についての判決を求めることができるという点です。今回の訴訟では、「集団」は、「米国にいる者で、自分の所有又は貸借する不動産の100メートル以内にNianticによってポケストップ又はポケモンジムが設置された者すべて」と定義されています(前述の和解案1.3参照)。

 

このような形だと、今回の和解案の内容のように、たとえ一人1000ドル(約11万円)ほどの賠償額であるとしても、幾人も集まって最終的な獲得額が数百万以上になる可能性があるため、弁護士も固定額ではなく、成功報酬で事件を受任できるということになります。

 

なお、この集団訴訟の場合、そのclassに該当する人たちは、訴訟手続そのものに参加していなくても、その分け前(和解金や賠償金など)にあずかることができます。実際、係属しているクラスアクションとその内容を列挙して、該当者を募るサイトもあります。専門的な用語で言うと、判決や和解の「既判力」が手続自体には参加していなかったmemberにも及びうるのです。納得のゆく和解内容であればよいですが、他のmemberが少額での和解に同意してしまう場合(「クーポン和解」と称されたりします)には不利益が及ぶ可能性があります。これを防ぐために、和解の成立にあたっては、裁判所のチェックが最終的に入ります(Class Action Fairness Act of 2005; 28 U.S.C.A. 1712(d))。また、memberが当該クラスから外れて個別訴訟を提起するためのオプトアウト手続もあります。

 

逆に、日本では、このクラスアクション制度のように、参加しなかった人の権利が法的手続において他の人によって代表されてしまうことに強い抵抗感があったため(「手続保障上の懸念」)、前述の「消費者裁判手続特例法」に基づく裁判制度のみが創設されたとも言えます。

 

脱線しましたが、本事件の和解内容は、今後のVR、ARゲームの仕様に影響を与えるものとして大変興味深いものです。